こんなことを皆さんとやりたいです(心療部)

2022.09.01

まだまだ暑さは続いていますが、通勤途中にトンボと出会ったり、気がつくと、日の長さが以前より短くなっていることを実感したり、どことなく秋の気配が感じられるようになってきました。 

さて、今月のコラムでは、心療部より「こんなことを皆さんとやりたいです」をテーマに、すこしお話したいと思います。といっても、正直に申し上げますと、このコラムを書くにあたって、私自身が、(皆さんと)何をやりたいのか?について、すこし時間を取って考える必要がありました。その際にキーワードにしたのが、”well-being (ウェルビーイング)”“コミュニティ(community)”です。

まず"well-being"についてですが、実は世界保健機関(WHO)憲章における健康の定義にキチンと記載されているのです。 

「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態 (well-being) にあることをいいます(日本WHO協会訳)」 

つまり、well-beingとは、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、満足できる状態であり、このような状態は、その人にとって幸福であるといってもよいでしょう。当然ながら、この幸福な状態は、ひとりひとりが肉体的、精神的、社会的にも、唯一無二の存在であるのと同様に、それぞれにとっての幸福があるはずであり、自分の幸福は、他者の幸福と違っていたとしてもそれは当然のことでしょう。

そして、もう一つのキーワードの"コミュニティ(community)"ですが、語源はラテン語のcommunitas。「一緒に、相互の」という意味があるcoと、「貢献、任務」などを意味するmmunitasの部分が一緒になったものです。そう考えるとコミュニティとは、「共に貢献しあう関係や場所」であるともいえそうです。 

お堅い話はこのあたりにして。皆さんは、松本零士の「銀河鉄道999」という作品をご存じですか?(ネタバレあります!)舞台は、高価な機械の身体を手に入れた富裕層が、生身の身体をもった貧しい人々を迫害している未来の世界。主人公の星野鉄郎は、母の遺言もあり、永遠の命に憧れ、不老不死の機械の身体を無料でもらえる宇宙にある終着駅を目指して999号に乗車します。道中の案内役は宇宙を旅慣れたメーテルという謎の女性。鉄郎はメーテルとの長い旅の途中で、様々な惑星に立ち寄ります。そこで生活する多種多様な価値観をもつ人々や機械化人間、そしてメーテルとの交流をとおして、最終的に鉄郎が選んだのは、今までのどおり限りある命をもった自分のままでいることでした。そして、999号での旅を最後まで見届けることでした。実は、メーテル自身は、宇宙を機械化して支配する女王プロメシュームの娘であり、母の支配する機械化された世界の「ねじ」にするために、これまでに鉄郎のような無数の若者と旅をしてきたことが明らかになります。しかし、メーテルは自分のしていることに苦しみを抱いていました。そして、今度は鉄郎が、メーテルを導く役割となり、女王プロメシュームの支配からメーテルを救い出します。 

鉄郎は、メーテルとの旅で、母の遺言どおりの幸福ではなく、「自分のままでいること」といった、自分にとっての幸福、well-beingを見つけました。メーテルは、当初こそ案内役でしたが、最終的には鉄郎との旅のなかで、メーテル自身も自分にとってのwell-beingを見つけたともいえるのではないのでしょうか。そして、999号の旅は鉄郎とメーテルのコミュニティであったと思います。999号というコミュニティは、旅の象徴であり、共に貢献する場、そして、若き日の鉄郎の思い出でもある、そんなことが連想されます。999号というコミュニティにおける鉄郎とメーテルの関係は、もしかしたら、クライエントと医療スタッフとの関係に似たようなところがあるのかも?しれません。 

心療部では、みなさんとwell-beingを目指す旅をしたいと思います。短い旅になるか、長い旅になるかわかりませんが、医学・心理学の観点から、クライエントひとりひとりの個性やライフステージに寄り添った旅となるよう、心掛けていきたいと思います。 

臨床心理士 佐野翼