融合・調和・協働(心療部)
今月は、心療部から、融合・調和・協働についてアサーションという視点からお伝えしたいと思います。
まず、アサーションとは何でしょうか?聞き慣れないと感じられる方もいらっしゃるかもしれませんね。もともとは、英語のassert(主張する)を語源としたコミュニケーションスキルの1つであり、自分の意見は率直に主張しながらも、相手の意見も尊重する自己表現の方法と言われています。このため、よりよい人間関係を構築するためのスキルとして、日常の対人場面のみならず、ビジネス場面などでも注目を浴びています。
ここで、コミュニケーションを、キャッチボールに例えて考えてみましょう。キャッチボールでは、必ず、「私」が投げるボールを受け取ってくれる「相手」がいます。このキャッチボールが、ちゃんと練習になっていて、2人で楽しめるためには、「私」と、「相手」の両方を意識している必要があります。つまり、「私」は、自分自身が投げたいボールを知っていること、そしてそれを受け止めてくれる「相手」を知っている必要があります。相手を“知っている”状態とは、例えば、相手は、どれくらい野球の経験があるのか?どういうボールを欲しがっているのか?ということを、相手を見て、知っていること。私が、自分が投げたいボールだけを投げていたら、相手は退屈して、キャッチボールをやめてしまうかもしれませんし、初心者の相手に剛速球を投げたらケガをさせてしてしまうかもしれません。一方で、相手にあわせたボールだけを投げていたら、私のしたい練習はできないかもしれませんし、そのことに不満を感じて、そもそも楽しくなんてありません。
お互いがハッピーだと感じられるようなキャッチボールをするためには、相手を知っている必要があるということ、それに、私自身を知っている必要があります。お互いがハッピーであると感じられるということは、二人の関係が調和のとれている状態。そこには、満足感もあり、生産的であるともいえます。つまりアサーションを意識した状態(アサーティブ)であることは、まず、自分自身の考え、欲求、気持ちに気づいていて、それを相手に押しつけるような自分勝手な状態でもなく、逆に自分を押し殺して相手や環境に合わせすぎた過剰適応の状態でもなく、私と環境(=相手)の調和をめざす態度であるといえます。
当院心療部の心理士は、皆様が主に“私を知る”ことのお手伝いをいたします。その上で、“相手を知る”といった「環境(=相手)」との調和を担当する部署とアサーティブに協働し、「私」と「環境」、いずれかに偏ることのないようバランスよく調和のとれたありかたを、皆様といっしょに模索してまいります。いっしょに模索して歩む、その先には、「私」と「環境」が融合した状態、つまり、よりよく生きる=Well-beingがあるのではないかと思います。ちなみに、assertでない状態とは、desertつまり「砂漠」です。そこに広がるのは見捨てられ、生命が芽吹くことのない殺伐とした風景でしょう。そうではなく、やはり、私たちは、他者や社会と繋がりを保ち、そこで活き活きとした生命が育まれるようなアサーティブな繋がりを目指したいものです。
臨床心理士 佐野翼